エイブラハム・リンカーン
細道で犬に出会ったら、権利を主張して咬みつかれるよりも、犬に道を譲った方が賢明だ。
たとえ犬を殺したとて、咬まれた傷は治らない。
第16代アメリカ大統領となったエイブラハム・リンカーンは「奴隷解放の父」とも呼ばれ、現代でも「もっとも偉大な大統領」とも称されるほど、絶大な人気を誇る人物です。
リンカーンが生まれたのは、1809年2月12日アメリカ合衆国ケンタッキー州ラルー郡でした。
彼の父トーマスは600エーカーの土地と街のいくつかの土地を持ち、それなりに成功した人物でした。
しかし、父は無学だったこともあり、訴訟によりそれらの土地を全て失ってしまいます。
貧困によりリンカーンは満足な教育を受けられませんでしたが、非常に勤勉で読書好きだったこともり、多くの知識を独学で獲得。
その後22歳になったリンカーンは、成功するという夢を叶えるため、一人でイリノイ州メナード郡のニューセイラムに移住します。
リンカーンが政治との関わりを持ち始めたのは、1832年のイリノイ州議会議員選挙からでした。
非常に弁が立つリンカーンはライバルを恐れさせるほどの強力な候補者でしたが、結果は残念ながら落選。
しかし、その2年後の1834年に二度目の出馬を行い、見事当選します。
政治家としての活動中、リンカーンが意識したのは「アメリカにおける奴隷制度」でした。
リンカーンといえば「奴隷解放の父」として知られ、そのイメージから「奴隷解放論者」だったと思われがちですが、実はそうではありませんでした。
どちらかというと「奴隷制度を拡大させなければ、自然と廃れていくだろう」と少し楽天的に考えていたとも言われています。
しかし、リンカーンがその考えを改めるのは「北部の新しい州に奴隷制を取り入れてはいけない」と定めた「ミズーリ協定」が破棄されたことがきっかけでした。
このままでは奴隷制はなくなるどころか、永遠に定着してしまうと気づいたリンカーンは、奴隷解放を最大の課題として捉えるようになります。
もし、木を切り倒すのに6時間与えられたら、私は最初の4時間を斧を研ぐのに費やすだろう。
そんなリンカーンが大統領の職に就いたのは、1860年のことでした。
リンカーンは共和党から出馬したのですが、大統領選なら必ずと言っていいほど行われる「選挙演説」を一度も行わなかったことで知られています。
その代わりにポスターや有権者に配る小冊子などを大量に発行。
それらの文書の効果は抜群で、他の候補者たちの力を大幅に殺ぎました。
その結果2位と大差をつける180票を獲得して大統領に選任されたのです。
しかし、それからも課題は山積みでした。
アメリカでは奴隷制は深く根付いており、そぐに廃止することは難しい状態でした。
そんな中、南部の独立をめぐる南北戦争が開戦。
他国の介入により自軍（北軍）は劣勢に立たされ、リンカーンはその状況を打破するためにある宣言を行います。
それが「奴隷解放宣言」でした。
北軍を勝利に導くための戦略的な行動であったこの宣言ですが、結果として奴隷制を縮小させることとなり、最終的には廃止にいたらせるきっかけになりました。
アメリカ史に偉大な功績を残したリンカーンは、1865年4月に暗殺されてしまいます。
ワシントンのフォード劇場で観劇中に、狂信的な南部支持者の男に至近距離から撃たれてしまったのです。
昏睡状態に落ちいたリンカーンは1865年4月15日午前7時22分に息を引き取りました。
リンカーンが暗殺されてから100年以上たった現代でもアメリカ史上最高の指導者とも言われ、アメリカ各地に彼の名前を冠した市や施設が作られています。
あなたが転んでしまったことに関心はない。
そこから立ち上がることに関心があるのだ。
1809年2月12日 アメリカ合衆国ケンタッキー州ラルー郡で生まれる
1816年 父トーマスが訴訟により全ての土地を失う
インディアナ州スペンサー郡へ移住する
1818年 母ナンシーがミルク病に罹り死去
1830年 一家はイリノイ州メイコン郡へ移住
1831年 一人で生きていく決意をしたリンカーンは、
のちにイリノイ州サンガモン郡（現在のメナード郡）ニューセイラムに移り住む
実業家に雇われ物品の運搬の仕事を始める
1832年3月 ブラックホーク戦争が開戦し、イリノイ州民兵隊に大尉として参加
イリノイ州議会議員候補者に立候補することを宣言し、政治との関わりを始める
4月6日 イリノイ州議会議員に出馬するも、立候補者13人中8位になり落選
1834年 イリノイ州議会議員選挙に二度目の出馬。二位の得票数で当選
1841年 44年までステイーブン・トリッグ・ローガンと共に弁護士事務所を経営
1842年11月4日 メアリー・トッドと結婚
1846年 アメリカ合衆国下院議員に選出される
1854年 奴隷制を擁護するカンザス・ネブラスカ法が制定される
10月16日 エチオピアでのカンザス・ネブラスカ法に反対する演説で奴隷制への反対意見を表明
アメリカ合衆国上院議員選挙に出馬し、選出される
1857年3月 「ドレッド・スコット対サンフォード事件」に判決が下り、黒人はアメリカ市民として認めないと判断される
リンカーンはこの判決を非難
1858年 共和党州大会で上院議員候補に指名される
1860年5月9日・10日 共和党イリノイ州大会にて、州推薦大統領候補に初めて指名される
11月6日 第16代アメリカ合衆国大統領に選出される
1861年3月4日 大統領就任式で第一次大統領就任演説を行う
アメリカ南部の独立をめぐる南北戦争が開戦
1862年6月19日 連邦議会で合衆国すべての領土で奴隷制を禁じる法が制定される
9月22日 奴隷解放予備布告が発令
1863年1月1日 奴隷解放宣言が有効となり、多くの奴隷が解放される
1864年 大統領選挙に圧勝し再選を果たす
ホワイトハウスへ出勤途中に暗殺未遂が発生。これを機に、シークレットサービスが組織される
1865年3月4日 第二次大統領就任演説を行う
4月14日 ワシントンのフォード劇場で観劇中、頭部を拳銃で撃たれる
1865年4月15日午前7時22分 昏睡ののち、死亡が確認される
1868年 ワシントンD.C.の市役所前にリンカーンの彫像が建立される
1922年 リンカーン記念館が設立
1999年 LIFE誌により「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に選出される